高校地理の授業動画「世界の農林水産業」、第2回は「農業の生産性と集約度」です。
今回のテーマである生産性と集約度という言葉、ある農業がどんな特徴をもった農業かを表現するのに大変よく使う言葉です。
前半では言葉の意味を説明し、後半では現実世界での具体的な数値を見ていきます。しっかりと意味を理解し、使いこなせるようになりましょう。
用語の説明
農業の生産性
先ずは、生産性について。
農業の生産性には、土地生産性と労働生産性の2種類があります。
土地面積あたり、あるいは労働力あたりの生産量を表す言葉で、土地生産性が高い、と言ったら同じ面積の畑からたくさんの収穫があるという意味ですし、労働生産性が高い、と言ったら農民一人当たりの生産量が多い、という意味です。
農業の集約度
一方、集約度というのは耕地にどれだけの労働力や機械を投入したのかを表す言葉です。
たくさんの人手をかける農業を、労働集約的な農業、たくさんの機械や設備を使う農業を、資本集約的な農業、と言います。
資本集約的の資本とは、お金という意味だと思ってください。
そして、人手も機械もどちらも少ない農業は、粗放的な農業、と表現されます。
具体例
具体例で考えてみましょう。
広さ1ha、1人で耕すと2tの小麦が収穫できる畑があるとします。
ある日、この人がトラクターと農薬を購入し、より資本集約的な農業ができるようになりました。その結果、作業効率が上がって、小麦の収穫量が2tから3tに増えました。
さて、このとき、土地生産性と労働生産性はどのように変化したと言えるでしょう。
土地生産性は、1haあたり2tから3tへと上昇。
労働生産性も、1人あたり2tから3tへと上昇したと言えます。
別のケースも考えてみましょう。
先ほどの畑、トラクターや農薬を購入する代わりに、人手を増やして2人で耕すことにしました。より労働集約的な農業になったということです。
その結果、分担してたくさんの作業ができるようになったので、小麦の収穫量は2tから3tに増えました。
このケースでは、土地生産性と労働生産性はどのように変化したと言えるでしょう。
土地生産性は、先ほどと同じく1haあたり2tから3tへと上昇していますが、労働生産性は、1人あたり2tから2人で3t、つまり1人あたり1.5tにむしろ低下したことになります。
一般的に、資本の投入は土地生産性と労働生産性の両方を向上させますが、労働力の投入は、そうとは限りません。
各国の生産性の違い
では、言葉の意味に続いて、動画の後半では実際の数値を見てみましょう。
おもな国の労働生産性と土地生産性
こちらの図、縦軸に労働生産性として農民一人当たりの穀物生産量、横軸に土地生産性として収穫面積1haあたりの穀物収穫量をとったものです。
色んな国がバラバラになっていますが、4つにグループ分けできます。
新大陸の農業
先ず、カナダ、オーストラリア、アルゼンチン、アメリカなど、グラフの上の方にあって労働生産性が非常に高いグループです。
これらは新大陸と言われる国々で、広〜い農地を大型の農業機械を使って少人数で管理するような農業、つまり、極めて資本集約的な農業が行われている国々です。
一番低いコンゴ民主共和国と比べると、オーストラリアやカナダは、農民1人あたりの収穫量が1,000倍くらいあることになります。これは、農民が農業から得る収入もそれだけ違う、ということでもあります。
とは言えこうした国々では、とにかく土地が広いことを活かして効率を重視した農業、はっきり言えば大雑把な農業を行うため、特にオーストラリアのように乾燥地域が広がる国では、土地生産性はあまり高くないことに注意しましょう。
ヨーロッパの農業
2番目のグループは、ドイツ、フランス、オランダなどのヨーロッパの国々です。
ヨーロッパでは、日本よりもずっと農地が広くて、しかも機械化が進み、品種改良や農業設備の整備なども進んでいます。そのため、土地生産性も労働生産性もどちらもかなり高いのが特徴です。
おもな国の農民1人あたり耕地面積
ここで、労働生産性に関する別の指標も見てみましょう。
こちらは、国毎の農民1人あたり耕地面積を表したものです。
ちなみに言葉の確認ですが、農地と耕地は地理では別物なので注意してください。耕地っていうのはあくまで穀物とか野菜とかを作っている畑のことで、農地っていうのは、耕地に牧場や牧草地の面積を加えたものになります。
さて、農民1人あたりの収穫量は、1人あたりの耕地面積×1haあたりの収穫量という関係が成り立つので、農民1人あたり耕地面積が大きい国ほど、基本的には労働生産性も高いと考えられます。
カナダ、オーストラリア、アメリカといった新大陸型の国々は、1人あたり耕地面積が100haくらいあります。1haは100mかける100mなので、1人あたり100haっていうと、野球場100個分くらいになりますし、ディズニーランド2つ分くらいが100haです。それだけの広さの耕地が、農民1人の平均です。日本の平均は1.7haなので、農業の規模が全く違うことが分かります。
フランスやドイツなどヨーロッパの国々も、20数haということで日本よりはかなり規模が大きいですね。
少し深掘りしてみましょう。1人あたり耕地面積では、フランスは約20ha、オーストラリアは約100haで約5倍も違います。でも、さっきの図を見ると、フランスとオーストラリアの労働生産性はほぼ一緒です。これはどういうことかと言うと、フランスは土地生産性がオーストラリアよりも5倍くらい大きいので、オーストラリアの100haで生産するのと同じだけの穀物が、フランスだと20haで作れる、よって、オーストラリアとフランスの農民1人あたりの収穫量はほぼ同じになる、ということです。
また、グラフの下の方、タイやインドなどの発展途上国では農民1人あたりの耕地面積が小さい傾向があります。
途上国では産業の発展が遅れていて、農業をする人の割合が大きいんですね。すると、限られた農地をよりたくさんの農民で割らないといけないので、1人あたりの耕地面積は小さくなります。1人あたりの耕地面積が小さい=1人あたりの収穫が少ない=農民が貧しい、ということにもつながっています。
アジアの農業
さて、先ほどの図に戻りましょう。
グループの3つ目は、日本、インドネシア、バングラデシュなどのアジアの国々です。
こうした国々では、農民1人当たりの農地面積が小さいので、労働生産性が低くなります。
一方で、土地生産性はどちらかというと高い国が多いです。これは、アジアの国々では、限られた土地でたくさんの人手と手間暇をかけておコメを育てるような農業、言い換えると労働集約的な稲作農業が行われているからです。
アフリカの農業
最後4つ目のグループが、ナイジェリア、エチオピア、コンゴ民主共和国などのアフリカの国々です。
こうした国々では、1人あたりの農地が小さい上に、農業設備の整備や機械化が進んでいないため、土地生産性、労働生産性ともに低いという特徴があります。しかも、こうした国々では農地が増えるスピードよりも、人口が増えるスピードの方が速いので、1人あたり耕地面積は増加するどころかむしろ減少しているという厳しい状況です。
まとめ
まとめると、
資本集約的で労働生産性が高いのが新大陸の農業、労働集約的で土地生産性が高いのがアジアの農業、どっちも高いのがヨーロッパの農業、どっちも低いのがアフリカの農業とイメージしましょう。
今回の動画の確認問題
はい、今回の動画は以上となります。
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それではまた次回!
今回の動画の参考文献
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