こんにちは!
高校地理の授業動画「世界の農林水産業」、第4回は「商業的農業」です。
前回の自給的農業に続いて、今回は農業の発展段階の2つ目、商業的農業(=売るためにつくる農業)を取り上げます。
商業的農業とは
ホイットルセイの農業区分では、混合農業、地中海式農業、酪農、園芸農業の4つが商業的農業に該当します。
ざっくり言うと、
- 混合農業とは、作物栽培と家畜の飼育を組み合わせた農業。
- 地中海式農業とは、地中海性気候の場所で行う農業。
- 酪農とは、乳牛を育てて牛乳やチーズなどを作る農業。
- 園芸農業とは、野菜や花などを作る農業。
です。
順番に詳しく見ていきましょう!
商業的農業の歴史
先ずは、こうした商業的農業が成立するまでの歴史を解説します。
ニ圃式農業
商業的農業は、ヨーロッパで発展しました。ヨーロッパではもともと「ニ圃式農業」といって、農地を半分に区切って、片方だけで農作物を育てて、次の年は反対の場所だけで作物を育てる、という農業をしていました。
何で半分しか使わないのかというと、「連作障害」を防ぐためです。「連作障害」というのは、毎年同じ場所に同じ作物を育てると、土の栄養が無くなって、収穫が減ったり、作物が病気になったりすることです。
連作障害を防ぐために、何も作らない期間を設ける、これを休耕と言いますが、その間に土地の地力を回復させようとしたわけです。
三圃式農業
とは言えやっぱり半分しか使わないのはもったいない、ということで中世になって考え出されたのが「三圃式農業」でした。
三圃式農業では農地を3つに区切ります。そして、1カ所は夏作物といって夏に育てる大麦やえん麦、もう1カ所は冬作物といって冬に育てる小麦やライ麦などを植えます。残り1箇所は休耕地です。これを3年でローテーションすれば、土地全体の3分の2で常に作物を作れます。
さらに、夏作物の大麦や燕麦は家畜に餌にもなるので、家畜も飼えるようになりました。しかも、家畜の糞は作物の肥料になります。
三圃式農業すげー!って思いますが、18世紀に入るとさらに効率的な農業が生まれます。
混合農業(原型)
農地を3つではなく、4つに区切って4年ローテーションにしました。2カ所に夏作物と冬作物を植えて、残った1カ所にカブなどの根菜類、もう1カ所にクローバーなどの牧草を植えます。
休耕地が無くても大丈夫なのは、このクローバーのおかげです。
クローバーなどの豆科植物は、空気中の窒素を土の中に固定することができます。クローバーを植えることで、何も植えずに休ませるよりずっと速く、土の栄養を回復させられるようになりました。
さらに、三圃式農業では冬場の餌が無かったので冬になると家畜を殺さないといけなかったのが、カブを植えることで冬場の餌問題が解決。家畜もどんどん増やせるようになりました。農業の大発明です。
これが、作物栽培と家畜飼育を組み合わせるという、現代の混合農業へとつながります。
混合農業
それでは、現代の混合農業を見ていきましょう。
ヨーロッパにおける商業的農業の分布は以下の図のようになっており、混合農業は地中海性農業と酪農の中間の緯度で行われています。
そして、高校地理で混合農業と言ったら、まず思い浮かべて欲しい国はドイツです。
下の写真は、ドイツの混合農業地域を上空から撮影したものです。
場所によって畑の色が違うのは、育てている作物が違うからです。こんな風にまだら模様の農地が広がっていたら、混合農業だ!と考えましょう。
ドイツでは、小麦やビート、じゃがいもなどの作物を育て、家畜としては豚を育ててるという混合農業が伝統的に行われてきました。
作っている作物は場所によって若干違うのですが、畑を分けて、家畜の飼料と、人間用の作物を組み合わせている点は一緒です。
ドイツはもともと土地が痩せていて、そこまで農業に向いた国ではありませんでした。だからこそ、作物だけではなく豚を上手に利用する工夫をしてきた結果、混合農業が発達して、それがソーセージなどのドイツ料理につながりました。
地中海式農業
地中海式農業とは
続いては、地中海式農業です。
文字通り、地中海の沿岸をはじめ、地中海性気候の地域で行われている農業です。
実は地中海沿岸では、先ほどの図のような発展が起こりませんでした。なぜかと言うと、地中海性気候(Cs気候)では気温の高い夏に雨が降らないため、夏に作物を栽培することができません。そのため、夏作物を組み合わせる三圃式農業ができなかったのです。
代わりに二圃式農業から発展したのが、地中海式農業です。
地中海式農業では、冬の雨を利用した小麦などの作物栽培と、オリーブ、コルクガシ、オレンジやレモン、葡萄など、夏の乾燥にも耐えられる樹木作物の栽培、そしてやぎや羊など乾燥に強い家畜の栽培を組み合わせたものになっています。
小麦から作ったパスタにオリーブオイル、そしてブドウから作るワインと、その蓋をするコルクという料理は、まさに地中海式農業のイメージです。
このうちの一つ、オリーブの生産ランキングを見てみると、スペイン、イタリア、モロッコと、地中海沿岸の国々が並んでいます。
地中海沿岸では、以下の写真のように一面にオリーブの木が植えられた景色を見ることができます。夏に雨が降らないという自然条件での工夫ですね。
酪農
酪農とは
続いては酪農です。酪農とは、乳牛を飼育して、牛乳やチーズなどの乳製品を販売する農業です。
再び先程の図ですが、混合農業が生まれた後、ヨーロッパではその場所の自然環境や立地条件に応じて、より収益性の高い分野へと特化していく動きが進みました。
ドイツのように混合農業を中心に豚肉や牛肉で稼ぐぞっていう地域もあれば、気温が低い地域では、乳牛の飼育に特化することで酪農が発達しました。また、都市の近くでは新鮮な野菜やお花を栽培する園芸農業が発達しました。
これらが全部、商業的農業に分類されるわけです。
さて、酪農の分布は、このように緯度が高い地域を中心となります。
加えて、アルプス山脈など、標高が高いために気温が低い場所でも酪農は行われています。デンマークやオランダ、それからアルプス山脈の位置するスイスなどが、酪農が特に盛んな国として有名です。
移牧
さらにスイスでは、移牧といって、季節によって牛を飼育する場所を変える酪農が行われています。
気温の高い夏には、標高の高い高原地域で乳牛を育てて、気温の下がる冬には谷に降りてきます。
この夏場の高原地域は「アルプ」と呼ばれます。アルプスの少女ハイジがおじいさんと暮らしている場所が、まさにこのアルプです。
園芸農業
園芸農業とは
最後は、園芸農業です。
都市に向けて新鮮な野菜、果物、花卉(かき)などを販売することを目的とした農業です。花卉っていうのは、チューリップとかバラとかのお花のことです。
こうした作物は設備や肥料にたくさんのお金がかかるのですが、それでも利益が出るくらい高く売れる商品を作ろうとするので、土地生産性は非常に高い農業となります。ヨーロッパでは特に、オランダが園芸農業の盛んな国として有名です。
この園芸農業、さらに2つに分けられます。
近郊農業
1つは、近郊農業といって、都市の近くで行われる園芸農業です。
都市に近いことを利用して、新鮮な野菜などを販売できる強みがあります。
日本だと、埼玉、群馬、茨城など東京に近い県では野菜の栽培が盛んですが、これも近郊農業と言えます。
輸送園芸
もう1つは、輸送園芸といって、都市から離れた場所で行われる園芸農業です。
遠郊農業や、トラックファーミングとも呼ばれます。
トラックや飛行機などの輸送技術が発展したことで、都市から離れた場所でも園芸農業が成り立つようになりました。
輸送園芸の代表地としては、例えばアメリカのフロリダなどが有名です。温暖な気候を活かして冬場を中心に野菜を作って、北部の大都市に輸送しています。
他にも、アフリカのケニアは気候条件が良いこともあって花卉の生産が盛んで、日本のお花屋さんに並んでいるバラの中にも、ケニアから輸入されたものが多くあります。距離的にはものすごく離れていますが、単価が高いために、飛行機で花を運んだとしても園芸農業として成立するんですね。
確認問題
はい、「商業的農業」の解説は以上となります。
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参考文献
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それではまた次回!
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