高校地理の授業動画「世界の農林水産業」、第3回は「自給的農業」です
農業の発展段階
さて、世界の農業は、歴史的には3つの段階で発展してきました。
最初の段階は、今回のテーマでもある自給的農業です。
農業は約1万年前から始まったと考えられていますが、初期の農業はあくまでも自分たちが食べるためのものでした。自分たちで消費するために作る農業が自給的農業と呼ばれ、今でも多くの地域で行われています。
第二の段階は、商業的農業です。
18世紀の産業革命以降、農業以外の産業が大きく発展して、人口も増加しました。その結果、自分たちが食べるためではなく、都市に住む人に売るために作るという商業的農業が発達しました。
第三の段階は、的企業的農業です。
20世紀に入ると、商業的農業がさらに発展して、農業がまるで工業製品のようになりました。巨大な資本をつぎ込んで、特定の作物を大量に安く作り、世界中に輸出する農業です。
ホイットルセイの農業区分
そして、こうした世界の農業をさらに細かく整理・分類した人が、アメリカの地理学者、ホイットルセイです。ホイットルセイは、世界の農業を全部で13に分類し、上図のような農業の世界地図を作成しました。
参考文献:ホイットルセーのオリジナル論文=>Derwent Whittlesey (1936). “Major Agricultural Regions of the Earth”
これから3回の動画・記事に分けて、自給的農業、商業的農業、企業的農業を、ホイットルセイの農業区分とあわせて解説していきます。
自給的農業
ホイットルセイの農業区分では、焼畑農業、遊牧、集約的稲作農業、集約的畑作農業、オアシス農業という5つが自給的農業に分類されます。順番に解説していきます。
焼畑農業
最初は、焼畑農業です。
上の写真は焼畑農業を行った畑ですが、黒く焦げた木が写っているのが分かるでしょうか。
そこに生えている木や草を燃やして、その灰を土の中に混ぜて肥料にするという農業です。
先ほどの地図では茶色で示された地域で行われており、主にアフリカ、アジア、それからアマゾンの熱帯地域で伝統的に行われてきた農業です。
どうして焼いた灰を混ぜるのかというと、この地域の気候と深く関係しています。
熱帯の土壌といえばラトソルでした。赤色で、酸性で、栄養分が少なく、農業には向かない土壌です。
しかし、ここに灰を加えると、灰というのはアルカリ性なので土壌の酸性を中和できて、しかも草木に含まれていた栄養分も補給できる天然の肥料になるわけです。
その上、燃やした草木は何年か経てばまた生えてくるので、数年ごとに場所を移動することで、ずーっと繰り返し行える持続的な農業でした。
ところが、近年では人口が増えすぎて、短いサイクルでどんどん新しい土地を燃やさないといけなくなっていて、焼畑農業が森林破壊の原因の一因にもなってしまっています。
焼畑農業で栽培する主な作物は、主にイモ類と雑穀です。
他の作物が育たないようなやせた土壌でも育つのがイモ類で、特に、キャッサバ、ヤムイモ、タロイモが栽培されます。
キャッサバというと日本ではタピオカの原料のイメージがありますが、現地で食べるときには、以下の写真のように、イモを練ってお餅みたいにて食べます。これに肉とか野菜などのおかずをつけて食べるのが、アフリカ中西部の代表的な食事です。
さて、ここでちょっと農業統計を覚えるコツを紹介したいと思います。
今登場したキャッサバ、ヤムイモ、タロイモも生産量ランキング1位ってどこの国だと思いますか?ちょっと予想してみてください。
答えは、全部、ナイジェリアです。
イモ類は焼畑を行うような熱帯地域で主食として食べられる作物です。となると、イモ類の生産量はその国の人口に比例すると考えられるので、2億人以上のアフリカ最大の人口を抱えていて、赤道近くに位置するナイジェリアの生産量が多いだろうと推測できます。
ナイジェリアの人口が多い、という人口分野の知識は知っている必要がありますが、作物統計は丸暗記するのではなく、こんな風に気候や人口と結びつけて推測する練習をしていきましょう。
遊牧
自給的農業の2つ目は遊牧です。
上の写真はモンゴルでの遊牧の様子ですが、馬に乗った男の子がヤギやヒツジを誘導しています。こんな風に動物を飼いながら、自分たちはテントに住んで家畜と一緒に移動しながら暮らすのが遊牧です。
どうして家畜を飼うのかというと、寒さや乾燥などで、農業ができない場所だからです。作物が育てられないので、自然に生えている草を動物に食べさせて、その動物の肉やミルクを人間がもらうというわけです。
遊牧が行われている場所は、以下の世界地図で黄色で示された地域です。
北極海沿岸のツンドラ気候(ET)となる場所、中国内陸部から西アジア、そして北アフリカにかけて乾燥気候が広がる場所など、寒帯と乾燥帯の気候分布と重なりが大きいことがポイントです。
続いては、場所ごとにどんな家畜を飼育しているのか確認していきましょう。以下の図をご覧ください。
先ず北極海沿岸など寒い場所では、トナカイです。トナカイはサンタクロースのように荷物も運んでくれるし、雪が降っても角で地面を掘って自分で食べ物を探せる動物で、寒い地域の暮らしの重要なパートナーです。
次に乾燥地域では、先ずヒツジとヤギがだいたいどこでも飼育されています。それに加えて場所によって+アルファで特徴的な家畜が飼われています。
その特徴的な家畜というのが、ユーラシア大陸内陸部では馬、中東ではラクダ、そしてアフリカ東部では牛です。
例えば、モンゴルと言えば馬で草原を駆け抜けていく、みたいなイメージが日本では強いですが、家畜の数で言えば、馬よりも羊やヤギの方が圧倒的に多いんですね。
最後は高山地域での遊牧。ヒマラヤ山脈では、ウシ科のヤクという動物が、アンデス山脈では、リャマやアルパカの遊牧が行われており、毛皮や荷物運びに使われています。
なお、こうした各地域の遊牧は、気候分野のB気候、D、E気候、H気候の動画でもより詳しく説明しているのでよろしければご覧ください。
集約的稲作農業・集約的畑作農業
次は、集約的稲作農業と集約的畑作農業です。
この2つは名前が似ていますが、セットで考えていきましょう。
別名アジア式稲作農業とアジア式畑作農業とも呼ばれ、文字通りアジアを中心に行われている農業です。水田を作っていれば集約的稲作農業、畑ならば集約的畑作農業と言います。地図上での分布地域は以下の図をご覧ください。
ここでの集約的というのは、労働集約的の意味で、たくさんの人手をかけて手作業で苗を植えたり、雑草を抜いたりするような農業ということです。使うものは人の手とせいぜい水牛くらいで、機械化は進んでいません。
この写真のような美しい棚田がアジアでは日本を含めて色んな場所で見られますが、これも集約的稲作農業の産物で、膨大な手作業で何百年もかけて作られました。ただ、こんなにみごとな田んぼを作っても、大量の人手を投入しているので一人当たりの労働生産性は低いのが現実です。
もう少し詳しい地図で、分布を確認しましょう。
年降水量1,000mmのラインが稲作と畑作の境界線となっており、1,000mmを超える地域では稲作、1,000mmより乾燥した地域では畑作が行われています。
日本ではお米は年に1回秋に収穫するだけですが、もっと暖かい地域だと、1年に2回~3回収穫できる場所もあります。そのため、同じ面積であれば、畑よりも水田の方が得られる食料が多くなります。
雨が多くて稲を作れるのであれば稲を作るけれど、雨が足りない場所ではしょうがないから他のものを作る、というイメージです。
上述した棚田は斜面に作られますが、平らな土地の方が広い水田を作れます。そのため地形的には、川の氾濫によって作られた平地である沖積平野が稲作に向いています。川が溢れて土砂が溜まった場所なので、平らで、水はけが悪くて水がたまりやすいので、水田を作るのに向いています。
例えば、ベトナムのメコン川、タイのチャオプラヤ川のデルタなどは、世界的な大稲作地帯となっています。
実際に以下のリンクからGoogle Earthでメコン川のデルタを見てみましょう。
ずーっと近づいていくと、一面見渡す限り緑色が広がっています。このほとんどが水田です。さらに近づいていくと、農家さんたちの家が一列に並んで建っているのが見えます。この家と家の間に通っているの、よくみると道路ではなく水路なんですね。メコン川の水をくまなく水田に行き渡らせるためにこうして膨大な水路を発達させてきたんですね。
集約的畑作農業に関しては、インド中央部のデカン高原、インド北西部のパンジャブ地方、そして中国の北部が代表的な地域です。
それぞれ、綿花、小麦、とうもろこし、こうりゃん、大豆などが代表的な作物となります。
特にデカン高原に関しては、レグールという土壌が分布していることも、綿花栽培が盛んな要因です。デカン高原といったらレグール、綿花とセットで覚えておきましょう。
オアシス農業
最後の自給的農業は、オアシス農業です。
オアシスっていうと、こんな感じで砂漠の中で水が沸いている場所という意味もありますが、乾燥している場所で、よそから水を持ってきて作物を育てる農業を、オアシス農業と言います。
作物が育てられないような乾燥地域で行うという点では、遊牧とオアシス農業の自然条件は重なります。乾燥地域では、動物の肉やミルクは遊牧で得て、農作物はオアシス農業で得ていると考えてください。
具体て例として、例えば中東のイランでは、カナートと呼ばれる地下水路を使ったオアシス農業が行われています。地上から見るとぽつぽつとこのように穴が開いているのですが、途中で水が蒸発しないように、敢えて地下に水路を作っているんですね。この水を使って、乾燥に強いナツメヤシや小麦などを育てています。
その他、オアシス農業については「乾燥気候の自然と暮らし」の動画でも詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
ちょっと補足ですが、オアシス農業は教科書会社や参考書によって分類が異なっています。
教科書によって集約的畑作農業に含まれる、と書いてあったり、園芸農業に含まれる、と書いてあったりします。今回の動画では独立させましたが、定期テスト対策としては、学校で使っている教科書やプリントの分類を確認してください。
確認問題・補足説明
はい、今回の動画は以上となります。
確認問題にチャレンジしたい方は、以下のURLにアクセスしてください。
なお、ホイットルセーの農業区分では、「粗放的定住農業」というものも自給的農業として掲載されている教科書もありますが、やっていることはほとんど焼畑農業と同じで、住む場所を何年かおきに変えるか定住するかの違いですし、問われることもほぼないので、あまり気にしなくて良いと思います。
参考文献
より深く学びたい人向けの参考文献も紹介しています。
特に農業分野について詳しく解説されている入試レベル+αの本です。本動画の気候と農作物の栽培条件の図は、この本をもとに作成しました。
共通テスト対策として問題演習を重ねたいならこちらが定番です。「これはおさえておきたい!」という問題ばかりが紹介されています。
共通テストではセンター試験以上に、初見のデータから考察するという問題が増えています。読み取り考察に焦点をあてたこちらの問題集は練習にぴったりです。
感想や質問などございましたら、コメント欄からお気軽にどうぞ。
それではまた次回!
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